先端研究の紹介

ストレスに負けない植物を作る

植物が環境の変化にどのように対処しているのか、遺伝子の動きを探ることで、寒さやストレスに強い植物育成を目指します。

植物遺伝学分野 宅見薫雄



環境に応答する遺伝子

 動物と違って植物は動けませんから、寒かったり暑かったりしても逃げることはできません。植物の生育に悪い影響を与える環境要因を「環境ストレス」と呼ぶのですが、植物はこの環境ストレスにさらされると、ストレスに負けないようにいろんな遺伝子を「発動」して対処しています。そこで私たちは、植物が環境の変化にどのように対処しているのかを探りながら、バイオテクノロジーを利用して環境変動に強い穀物品種を作ろうとしています。

 コムギなど秋に種をまいて春に花を咲かせる植物は、冬の低温凍結ストレスを乗り越えるために「低温馴化」と呼ばれる適応機構をもっています。あらかじめ低温で一定期間処理するとより低い温度に対して耐性を獲得するという機構です。この低温馴化の過程では、たくさんの低温応答性遺伝子群が発現し、これらの遺伝子産物が細胞に蓄積することで凍結耐性を獲得します。

ストレスに対する応答は品種によって異なる

 凍結耐性の異なるコムギの品種を比べると、これらの低温応答性遺伝子群の活性化のタイミングやその程度が異なっていることが明らかになってきました。植物は、たくさんの遺伝子を一度に活性化するために、複数の遺伝子を共通して制御する因子を使っています。この制御因子をバイオテクノロジーにより活性化した形質転換植物を作ってあげると、たくさんの低温応答性遺伝子をまとめて活性化することができ、凍結耐性だけでなく、乾燥や塩などの他の環境ストレスにも強くなることがわかりました。

 また、いくつかの制御因子を統括するさらに上位に位置する制御遺伝子が、さながらオーケストラの指揮者のように全体をコントロールしていることもわかってきて、このような遺伝子に起こった変異がコムギ品種のストレス耐性の違いを決めているようです。私たちは、環境ストレスに応答する遺伝子ネットワークを解明しながら、異なる環境に適応したコムギ系統がもつ遺伝的な「個性」を知ろうとしています。このような様々な「個性」を持ったコムギ系統を見つけ出すことで、新たな品種改良に役立つ遺伝的な「資源」を見いだしてやろうというわけです。

遺伝子のネットワークを読み解く

 コムギの環境ストレス応答にどのような多様性があって、系統間の違いをどの遺伝子のどのような変異が決めているのか、それがわかればストレスに負けない品種の開発に応用できます。植物が環境の変化に応答する仕組みは、とても複雑ですが、1つ1つのデータを丹念に積み上げることで、ストレスに負けない作物の開発につなげたいと願って
います。

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