応用植物学コース 熱帯有用植物学

深水処理により草丈が2m以上に伸長したバングラデシュの浮稲。

 熱帯地域では乾燥地帯から湿潤熱帯まで様々な環境下に多様な植物が生育しています。それらの植物が生育環境にいかに適応しているかを生理学的、生態学的に解明し、作物生産の安定と環境保護に貢献すること、それらの植物が持つ有用な遺伝子を利用して作物の生産性や環境ストレス耐性の改良を行うことを目的としています。現在、東南・南アジアやアフリカの洪水地帯で栽培されている浮稲と冠水耐性稲の深水適応、光合成の高温・高CO2条件への適応などを主なテーマとして研究を行っています。

形質転換イネの作出と光合成速度の測定

もう少し専門的に知りたい方へ

 近年、地球温暖化の影響により洪水が増加傾向にあり、その被害は熱帯地域に集中している。イネの洪水に対する適応は、幼植物体が水没状態に遭遇すると成長を停止し洪水後に成長を再開する反応である冠水耐性と、成熟植物体が数ヶ月にわたる長期的な洪水による水位上昇に伴い節間を伸長させることで水没を回避し生育を続ける反応である浮稲性の二つが知られている。しかしながら、これら二つの洪水適応形質を併せ持つ栽培イネ品種は見つかっていない。最近我々は、南米アマゾン流域に自生する野生イネのなかにこの両形質を持つ系統を発見した。これらの植物の反応と関与する遺伝子を解明し、浮稲性と冠水耐性を合わせ持つ栽培イネ品種の育成を目指している。  さらにアフリカには、洪水だけではなくさまざまな不良環境に耐性のある野生イネが存在する。これらの野生イネの環境適応についても研究している。

 Rubiscoは光合成においてCO2を有機物に変換する最初の反応を触媒する酵素である。Rubiscoの触媒反応は他の酵素に比べて非常に遅く、光合成の主要な律速因子となっている。Rubiscoの触媒速度には種間差があり、熱帯地方で栽培されているC4植物のソルガムは触媒速度の高いRubiscoを持っている。そこで、遺伝子組み換え技術、ゲノム編集技術を使ってイネへのソルガムRubiscoの導入を行い、光合成能力の改良を試みている。

 地球環境の温暖化を考えると、植物の高温耐性の強化は重要課題である。植物において光合成は高温に弱い反応である。また光合成反応の中でもRubiscoの活性化を担うRubisco activaseが高温で失活しやすい。中南米の熱帯域で自生・栽培されているCAM植物のアガベは、非常に高温耐性の高いRubisco activaseを持つ。そこで、遺伝子組み換え技術を使ってイネにアガベRubisco activaseを導入し、イネの高温耐性の改良を試みている。

 その他、高CO2条件で働きが活発になるデンプン合成制御因子(CRCT)の研究も行っている。

熱帯有用植物学研究室の温室
ジャトロファ,キャッサバ,パパイヤ,サトウキビ,コショウ,バナナ,アガベなど
様々な熱帯作物が育成されている

熱帯有用植物学のホームページへ