食料生産フィールド科学

 農業生産は生物の持つ様々な機能を活用することで成立しています。現在栽培されている作物は先人達が地域の環境とその機能を活かしながら育て上げてきたものです。そうした大切な地域資源を守り育てて行くことは、農業における古くて新しい課題です。そのためには、地域特産作物の優れた特性を維持しながら、新たなニーズや環境変動に対応した改良が必要となります。それゆえに、植物、微生物及び昆虫などの遺伝資源を保全するとともに、様々な機能を有する未利用資源の発掘も求められています。
 また、農業生産では消費者には安心で安全な食料等を安定して供給することが望まれています。食料フィールド科学では稲、麦等の作物、野菜、花き、果樹などの園芸作物、牛、豚、鶏などの畜産物について生産性、品質の向上および人や環境に優しい生産技術に関する研究をしています。もちろん、研究室内のみだけではなくフィールドで実際に利用できる実践技術を開発しています。

もう少し専門的に知りたい方へ

 食料生産フィールド科学では次の3つの大きなテーマを研究しています。

1)花きの新品種育成と生産および品質管理技術

 花きとは切り花、鉢物、花壇苗、植木、芝など観賞する作物の総称です。特に花き生産では多様な種類、新(珍)規性に富んだ品種が求められています。現在、キクを中心にイオンビーム等による育種技術を用いてキクのオリジナル品種の育成に取り組んでいます。また、四季のある日本では周年を通した安定生産が重要な課題です。光や苗冷蔵処理等を利用した開花調節、夏季の蒸発冷房による高温対策、冬季のEOD(日没後)加温による省エネルギー対策に関する環境制御、養液土耕による養水分管理など、花きの種類や利用方法に適した栽培技術の研究を行っています。さらに、糖やエチレン作用阻害剤などを用いた収穫後の日持ち性に優れた切り花の管理技術に関する研究にも取り組んでいます。

2)紫外光を利用した病害虫防除

 植物を加害する病原菌や害虫は、農薬を連用すると、抵抗性を獲得し、農薬が効かなくなることがあります。そこで、農薬のみに頼らない病害虫防除方法として、紫外光(UV-B)を利用した病害虫防除方法を研究しています。病害に対しては、イチゴなど園芸作物に紫外光を当てて、病害抵抗性を誘導し、うどんこ病などの病害に罹りにくくする技術を民間家電メーカーと開発し、実用化しています。また、紫外光(UV-B)が直接ナミハダニなど有害動物の孵化を抑制する現象を利用して、病害虫を同時に防除する研究も進めています。その他、内生細菌など生物防除に関する研究も行っています。

3)養鶏

 鶏の用途は大きく卵用、肉用および愛玩用に分けられます。卵用の代表的な品種は白色レグホーンで、年間300個以上の卵を産むことがあります。肉用では白色コーニッシュおよび白色プリマスロックで、両種を交配したものがブロイラーです。ブロイラーは50日足らずで体重が3kg以上に成長し、食用となります。これらのように実用的には外国の品種が優れていますが、愛玩用においては日本の品種は目を見張るものがあります。国内には30余りの外観が美しい愛玩用の品種が存在し、そのうちの17品種が国の天然記念物に指定されており、品種とそれらが持つ多彩な内種により無数の表現型が作り出されます。これらの中には肉質が特に優れ、鶏肉の風味の改善に役立っている品種が少なくありません。現在、これらの品種を利用した肉用の地鶏が多数開発され、全国で生産されています。兵庫県においても「ひょうご味どり」が開発され、その改良や飼育技術に関する研究を行っています。改良には体重等選抜の強化、良系統の導入、ゲノム解析などを取り入れています。また、ブロイラーの生産性を向上させるLED照明の色、照度及び照射期間に関する研究、さらに、糞の臭気を抑え、発育性を改善させる資材に関する研究も行なっています。