応用機能生物学コース 細胞機能構造学

 多様な生命現象における「細胞の機能と構造」について、各種顕微鏡を駆使して得られる形態変化やエピジェネティックな遺伝子修飾機構に注目し、その分子機構の解明と社会への応用に向けた教育研究を行います。

もう少し専門的に知りたい方へ

 「細胞の機能と構造」を探求するために着目しているのは、イネ科植物に感染する病原性糸状菌であるいもち病菌です。いもち病菌の胞子は30×10マイクロメートルと小さいものですが、宿主葉上で発芽し、付着器という特殊な器官を形成しながら植物細胞へ侵入します。この宿主侵入過程における遺伝子発現機構や形態変化を明らかにするとともに、新たないもち病防除法の開発に取り組んでいます。

イネいもち病の発病様子(左)といもち病の胞子(右)
  1. 植物病原菌のエピジェネティクスを介したゲノム制御
    いもち病菌に限らず、植物病原菌は宿主細胞への感染に際して、胞子、発芽菅、付着器といった機能も形態的にも異なった細胞を作り出します。こういった細胞分化には、ヒストン修飾やDNAメチル化といったゲノムのエピジェネティクス制御が関連していると考えられ、その詳細について研究を進めています。下図はヒストン修飾の一種であるH3K4me2やH3K4me3が付着器形成時にどう変化しているのかを調べ、それと遺伝子発現の関係を調べているものです。また、病原性の変異を引き起こすゲノム内の転移因子がエピジェネティクスによりどのように制御されているのかも解析しています。
    コムギいもち病菌の付着器形成に伴うヒストン修飾(青)と遺伝子発現(赤)の変動解析
  2. 形態学的アプローチによる植物病原菌の病原性メカニズムの解明
    (1)胞子発芽・宿主接着・付着器形成
    植物病原糸状菌の植物感染成立には、まず宿主植物への付着が重要となります。発芽過程で産生される細胞外物質(Extracellular matrix)が接着に貢献していると考えられます。宿主接着に成功すると、菌糸先端に付着器を形成し、宿主侵入のための準備を進めて行きます。私たちは、これら一連の仕組みに関わる遺伝子の特定を試みています。
    コムギ葉上に形成されたいもち病の付着器(左)と宿主接着に貢献する細胞外物質(右)
    (2)宿主侵入能力の創出
    いもち病菌が宿主侵入するためには、付着器において高い侵入力(膨圧)を生み出す必要があります。付着器には多量のグリセロールが蓄積されることにより、外界との浸透圧差が生じ、高い膨圧を生じます。このとき生じる膨圧は8メガパスカルと見積もられ、自動車のタイヤ圧の40倍にもなります。いもち病菌はグリセロールを生成するために、胞子に貯蔵されていたグリコーゲンや脂質を積極的に代謝します。この過程において、オートファジー機構が活性化され、胞子細胞は死に至ります。このようにして生じた膨圧を付着器底部に適切に作用させるために、細胞骨格が宿主侵入部位に集積することが明らかとなっています。私たちは、これら一連の仕組みがどのような制御によって行われているのか、解き明かそうとしています。
    いもち病菌の発芽過程における脂質の可視化(左)とオートファジーが活性化した胞子細胞(右)
  3. 新たな病害防除法の開発
    (1)剥離効果を利用した生物防除

    私たちは、いもち病菌において宿主接着が重要であることに着目し、病原菌の剥離効果を利用した生物防除法の確立に取り組んでいます。

    細胞外物質を分解できる酵素によりいもち病菌を剥離することに成功した(左)
    コラゲナーゼ活性を持つ微生物を利用することによる新たな生物防除法の開発(右)

    (2)ヴァイロコントロール(Virological Control)
    いもち病菌だけでなく、多様な植物病原糸状菌の防除を目標として、植物病原菌にのみ感染するウイルスを利用した生物防除法であるヴァイロコントロールの確立に取り組んでいます。

    特定のウイルスが感染した病原菌は宿主植物に病気を起こすことが出来なくなります(左)
    このようなウイルスを利用した生物防除法をヴァイロコントロールと呼んでいます(右)

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