植物にも人畜同様に病気があります。植物の病原体には、糸状菌(かび)、細菌、ウイルスなどがあり、健全で安定した作物を生産するには、これらの病原菌の感染防除が不可欠です。そのためには、病原体が病原性を発現する仕組みや植物の感染に対する抵抗性発現の仕組みを明らかにする必要があります。したがって植物病理学は細胞学、遺伝学、生化学、菌学、ウイルス学、細菌学などさまざまな知識と情報を駆使して研究する総合科学的なところがあります。本研究室では、いもち菌はなぜ特定の植物に寄生するのか? また、さび病菌に対する抵抗性はなぜ品種特異的なのか? これらの仕組みを解く研究を行っています。また、環境保全に配慮した病害防除法の開発にも取り組んでいます。
コムギいもち病(Dr. A. S. Urashima提供
植物病理学分野では、1)エンバクの病害抵抗性機構の解析、2)いもち病菌の種特異的寄生性決定機構の解析、3)植物生長促進性根圏細菌(PGPR)を用いた病虫害防除法の開発、4)トランスポゾンの植物-微生物相互作用における役割の解析の4つの大きなテーマについて研究を行っている。本年度の課題ごとの主要な成果は次の通りである。
1)エンバクでは宿主特異的毒素ビクトリンの作用や非親和性さび病菌などへの抵抗性反応に伴ってアポトーシス様細胞死が起こることが分かっていたが、今回細菌、ウイルスの感染時や親和性のさび病菌の感染でも同様の細胞死が起こり、アポトーシス様細胞死は植物-微生物相互作用においてかなり普遍的な現象であることが明らかとなった。また、この際ミトコンドリアにおけるオキシダティブバーストが引き起こされることも示された。
2)アワいもち病菌とコムギいもち病菌のF1をアワに接種し病原性の分離分析を行った結果、この特異性には2つの主働遺伝子が関与することが判明した。これらをPFM1、PFM2と命名した。一方、アワ菌に1.2 Mbのミニ染色体が存在することを見出した。上記F1における本染色体の行動を追跡した結果、欠失・重複・姉妹染色分体間不等交叉等のさまざまな染色体構造変異を起こしていることが判明した。
3)PGPR菌FPT-9601はアラビドプシスにも着生することが分かり、今後宿主側の遺伝的な解析が容易になることが期待された。
4)交配時に、トランスポゾン等の反復配列に特異的に高頻度の塩基置換が起こるRIP(Repeat-Induced Point mutation)という現象は、これまでアカパンカビとその極めて近縁の菌にしか起こらないと思われていたが、いもち病菌においてもRIPが起こることを証明した。