応用植物学コース 森林資源学

 日本の国土の67%は森林で覆われています。森林には木材の供給、水質の保全、土砂災害の防止、炭素固定、レクリエーション(癒し)などの多様な機能があります。森林資源学分野では森林生態学、樹木生理学・組織学、森林病理学などの知識を用いて、人工林や里山、原生林、社寺林、都市緑地など様々なタイプの森林について、それらを資源として活用しながら生態系として維持していく課題に取り組んでいます。ここでいう資源とは、木材のような物質資源だけでなく、癒しの場として私達の生活環境の向上に寄与するような、広義の「資源」です。最近では、このような森林の機能を「生態系サービス」とも呼んでいます。

 樹木は長寿で、森林はゆっくり成長します。森林を持続的に管理・保全するには、50年あるいは100年先の森林の姿をイメージできる人にならなくてはなりません。当分野では長期的な展望を持って、森林の保護管理や環境問題に取り組める人材の育成を目指しています。卒業生の主な進路は公務員(林学・造園)、大学院進学(研究職)、建築・ハウジングなどのメーカー、環境NPO等です。

Tree climbing とヤクスギの巨木
萎凋病に感染したコナラの横断面と感染組織の顕微鏡画像(樹幹縦断面)

もう少し専門的に知りたい方へ

 森林資源学研究室では、身近な里山林や都市緑地としての社寺林から屋久島や北海道、北米の原生林まで、様々な森林生態系の保全に関する研究を行っています。以下に主な研究テーマを挙げます。

【都市緑化、社寺林の維持】社寺林は身近な自然として、都市住民に親しまれています。しかし、都市環境において自然性の高い森林を維持するのは困難であり、園芸品種の侵入や樹木の衰退など様々な問題が起こっています。そこで、兵庫県西宮市の西宮神社の森において、侵入種の防除による植生管理とその後の生態系復元などの緑化手法を確立する調査・研究を行っています。

【樹木萎凋病の発病機構】森林には、樹木を加害する昆虫や枯死させる微生物が生息しており、時には重大な集団枯死が起こります。100年前に北米から移入されたマツ材線虫病(マツ枯れ)や近年増加しているナラ枯れでは、病原体が樹木を短期間で枯死させ、森林の生態系を急激に変化させるため、他の生物の生息環境にも影響します。このような病気の発生機構や抵抗性に関する基礎的な研究を樹木生理学および解剖学的手法により進めています。また、伝染病による集団枯死被害の軽減を目的とした応用研究を行っています。

【里山林の健康管理】近年注目が集まる里山の林は,天然林と呼ばれることもありますが,実は,数百年以上も燃料や肥料などの資源採取に使われて維持されてきた森林(二次林)です。里山林は,約半世紀前から人々が利用しなくなり放置されたことによって,健康状態が悪化しています。人が管理してきた森林を放置しても原生林にはならず,ナラ枯れのような予想外の現象が起こること,適度な伐採が健康回復に有効であることなどがわかってきました。マツやナラ類その他の多種の樹木で構成される里山林を健康な状態で維持するために,管理方法について研究を行っています。

【原生林・巨樹・巨木】世界の原生林の多くは人間活動によって伐採されてしまったため、残された箇所は世界遺産に指定されるなど、保全の対象とされています。屋久島や北海道など国内の原生林をはじめ、アメリカ西海岸の国立公園において、森林生態系保全に関する研究を行っています。また、原生林を特徴づける巨樹・巨木の寿命や大きさを規定する生理機能を解明するため、ヤクスギやセコイアメスギ、ジャイアントセコイアなどの巨木を対象とした基礎的研究を行っています。これらの知識は、天然記念物に指定されている巨樹・巨木の適切な維持管理手法の確立に役立ちます。

【樹木の光合成と水利用】光合成は地球上のすべての生物のエネルギーの源となるプロセスであり、樹木の光合成は陸上生態系におけるCO2吸収量の大部分を担う重要な機能です。樹冠に降り注ぐ太陽エネルギーを樹木はどこまで無駄なく、効率的に利用しているのでしょうか?樹木の光利用に関する研究は、人類による太陽エネルギー利用への応用も期待される新しい研究分野です。
樹木の生存と成長には,根から吸った「水」を枝葉に効率よく届けることが重要です。葉の吸水機能や耐乾性、水の通路である道管や仮道管(通導要素)の配列などといった解剖学的な情報は,樹木の生理機能を理解する上で不可欠です。

以上のように、森林資源学研究室では樹木や森林生態系に関する研究・教育活動を通して、地球温暖化の軽減や低炭素社会の推進、生物多様性の保全に貢献しています。

研究室については森林資源学のホームページへ